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悪魔と天使【合同創作】

黄金の夕暮

悪魔と天使/ノワールとバアド

 大通りの両側には背の高い銀杏が並木となって続いていた。鮮やかな山吹の葉がはらはら舞い落ちて、コンクリート一面を黄金に染めている。
 ノワールにとって景色とは悠長に楽しむものではなく、自分を苛む同族が潜んでいないかどうか怯えながら探るものだった。
 しかし、数奇な縁によって餓鬼大将じみた鳥の悪魔と知り合ってからは、自分を取り巻く世界は少しずつ変わり始めていた。ブランシュと出逢った時ほど、花が綻ぶのに似た急速な変化ではないけれど――根雪が少しずつ溶けてゆくような。
「おい、ノワール」
「え、むむっ……!?」
 青空に蕩けるような黄色を眺めていると、突然きゅむと鼻先を摘ままれてしまった。数歩ステップを踏んでなんとか転ばず踏み止まると、先導していたはずのバアドがいつの間にか振り返っている。矮躯に似合わぬ厳めしさで眉根を寄せると、ぱっと指先を離した。
「ったく、さっきから上の空でしょうがねえな。大方おれの話も聞いてなかったんだろ?」
「きっ、聞いてたもん……!」
「ほーう? じゃあ言ってみろよ。おれはお前に何の話をしてたんだァ?」
 あ、悪魔……! 喉元まで出かかった台詞を呑み込むのに大層難儀するほど、バアドの悪どい笑みは板についている。いや、そもそも悪魔であるのには違い無いのだが。
 こうなると互いに一歩も引けない状況である。むむむ、と果敢に睨んでみても鳥の悪魔は何処吹く風。ともかく何か思い浮かんだ事をぶつけてみないと打開策は無さそうだ。
「バアドは……きっとブランシュと、セラフさんと……私の話をしてたんだよ。だって、一緒に居る時、私達の話しかしないもん」
 容易く言い返されてしまうだろうか。
 しどろもどろと迷いつつ告げ終えると、意外にも相手は口を薄く開いて固まっていた。その唇から容赦のない反駁が聞こえる事は無い。

 代わりに、伸びてきた手がわしゃわしゃとノワールの黒髪を乱す。驚きの悲鳴はじきにくすぐったさを訴える小さな笑い声に変わった。
 太陽が地平線へ沈もうという時間でも、ここだけはちっとも寒くなんかなかったのだ。