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悪魔と天使【合同創作】

天使の悲嘆

悪魔と天使/あの子と私を探して

 なぜ世界はこうなのだろうと焦りと共に疑問は募る。一緒に夕食の買い出しをしようと約束をしたのに、ノワールは待ち合わせ場所へ現れなかった。何かあったのだろうか。ブランシュは仲間の天使へ色々聞いてみたのだが、どの情報も空振りでもうすぐ日が暮れてしまう。足がくたびれてきた所で、物凄く不機嫌そうな顔をしたバアドがやってきた。「お前、あいつらにからかわれてるぞ」親指で指した背後で、くすくす笑っていた天使達が急いで姿を消す。からかわれている、とは、嘘をつかれていたという事か。「……どうしてそんなことをするんでしょう?」心底からわからなくて、だって自分は大事な友達が無事かどうか不安で堪らなくて、藁にも縋る思いで聞いて回っていたのに。鳥の悪魔は真っ赤な目を閉じた。開いた口から紡がれる言葉は、やっぱり不機嫌だった。「こんなくだらない事して喜ぶ奴らの気持ちなんか、おれだってわからないよ。ブランシュ、ノワール絡みの相談なら今度から直接おれにしてくれ。悪魔の事情は悪魔の方が詳しいのは、賢いお前ならわかるだろ?」

 同じ天使という仲間のはずなのに。聖なる記念を明日に控えた喜ばしい日であるはずなのに。少女の胸の内は沈んでいた。「私には、わからないことが多すぎるのかもしれません」バアドに促されて歩き出す。天使と、それ以外のものも、お団子頭の小さな悪魔が通るだけで黙って道を開けた。この悪魔は元々天の玉座から一番近い場所へ侍る天使だったが、大罪を犯して堕天し、今は悪魔として振舞っている。元は同族だったからといって天使と折り合いが良い訳ではない、かといって悪魔仲間と親しくしているかと言えばそうでもない。ブランシュやノワール、兄弟関係であるセラフとは交友関係を持っているが、それ以外の者が口を開けば、バアドを評するのは押し殺した罵倒か、見え透いた嘘で固められた美辞麗句ばかりである。それがどうしてなのかもブランシュは詳しく知らなかった。

 控えめに問い掛けてみるのには随分勇気が要ったが、ぶっきらぼうながらも謀りはしない矮躯の悪魔は空を一瞥し、随分落ち着いた様子で小さな息を吐く。「おれはおれの正義でやってはならない事をした。それが正しいんだと信じてたし、今でも間違ったとは思っちゃいない。けど、結果的に負けちまったからな。争いが起これば憎しみも生まれるし、そういう憎悪ってのは敗者へ流れてくるもんだよ。それがあまりに鬱陶しいから、あちこちで暴れた結果が現状だ。暴力で黙らせれば少なくとも目の前にいる間は静かになる。ブランシュ、お前もさ、気に食わない奴らはかたっぱしから締め上げちまったらどうだ」「私にはそんな力、ありませんから……」「じゃあノワールと一緒にやればいい。あいつだってもういい加減、周りの馬鹿な奴らに好き勝手させる必要はない。お前の浄化と、あいつの幽閉。揃えばそれなりにやれるじゃないか。平和ボケした有象無象の天使悪魔、みんな端からやっちまえる」天使は足を止めた。一歩、先を行った悪魔が振り返っている。ブランシュは体の横にある両手を握りしめる。拳を作るだなんて、ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない。「バアドさん。私は、争いのために友達を利用したりなんかしません。憎しみを生むとわかっている場所に、ノワールを連れて行ったりなんかしたくない。だって、だって、私達がそうしたら、そう、したら……」なぜか涙が溢れそうになって、それ以上の言葉は続かなかった。挑発してくる相手と戦って何になるだろう。力に訴えた時点で、自分達の顔は彼らと同じになる。さっき、バアドがくだらないと切り捨てた者達と同じ顔に。

 バアドは暫く黙っていた。目を閉じ、眉尻を下げて今度は分かりやすく溜息をつく。「わかってるよ、お前ならそう言うってわかってた。お前、ほんと真面目だよな。いいんだよ、今のはおれに怒っていい場面だ。だっておれが最低な事を言ったんだから。だから泣くなって。イブにお前を泣かしたとあったら、セラフから何時間小言を言われるかわからない」立ちすくむブランシュの手を取って歩き出す。ちょうど向こうから見慣れた人影がやって来る所だった。「まだ子供なんだから、もっと年長者のおれ達に頼っていいんだ。お前達の運命を肩代わりできなくっても、ばらばらになった二人を引き合わせるくらいはできるんだぜ」セラフに抱えあげられていたノワールが、半ば飛び出すようにして地面に両足をつけて駆け出してくる。バアドに引かれていたブランシュの手は解けていた。揃って目尻に溢れる涙はさっきまでとは違う色。空白の時間を埋めるように、抱き合って大泣きする。まるで出会った最初の頃みたいに。