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 執事の言いつけを守らぬ子供は、コウノトリに攫われて帰ってこられなくなる。

「ばかだな、お前」拳骨というには些か以上に優しい衝撃に童女は目を丸めた、形ばかりの制裁をくらわせたのは屋敷の中でも兄貴分の男子、詰め襟のボタンをいくらか外し残光を仰ぐ、熱そのものが注ぐような夕の日差しは赤々と空を染める色そのままに熱い、腰を抜かしたあどけないおかっぱ頭はぽかんと口を開けたきり言葉を忘れてしまっていた。

「お前、コウノトリなんかに攫われる訳ないって、陽が傾いた後に外へ出ようとしたんだよな」優しい声が今一度、ばかだな、と嗜める、攫われるに決まっているだろうと、見上げた空の向こうへ羽ばたいていく巨大な鳥の影に目をすがめながら。

 あの怪鳥は毎日あらわれる訳ではない、しかし人には測りしれぬ基準をもってして飛来する化け物は決まって幼い子供を連れて行こうとするので、使用人が炊事に追われ目が行き届かなくなる夕刻に子らは外へ出ぬよう厳命されているのだ、空気そのものを叩く恐ろしい羽ばたきが聞こえなくなってからようやく妹分が泣き始めた、手を引いて立たせる、まだ膝を震わせていたが歩くことはできそうだ、これ以上の厄介があったら家主の化け猫に大目玉を食らうのは目に見えていたので、童女を連れた詰め襟は足早に屋敷へと向かった。