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【一行小説】行

行十十

 きゅっとほどよく、あなたの首を絞めるのがお仕事です、力加減はあなた次第です、ぶら下がるのが役目なので、くれぐれも私にぶら下がらないでくださいね、ネクタイより。【身嗜】

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【一行小説】行

行九十

 鳥になった男の話をしよう、ある日目が覚めたら自宅のベッドの上ではなく木の枝を集めた巣の中だった、鳥に関する知識が豊富ではなかったので自分がなんの鳥なのかもわからず、本能的に木の上から飛び立つと、それから彼はずっと探している、毎日当たり前のように帰っていた本当の自分の家を、そこにもしこれまでと同じように『彼』が暮らしていたら、それは一体誰なのだろう?【渡鳥】

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【一行小説】行

行八十

 夫の臨終に際して手を握ったのは最後の妻、数えて六人目の伴侶だった、彼らの出会いは六十年前、まだ少年と少女だった頃から続く長い縁で、やがて画家を志す少年を傍らで支えた少女は、産まれてからずっと、十年ごとに新しく芽生えた人格が交代する特殊な体質と聞いている。【交代】

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【一行小説】行

行七十

 うつ伏せに横たわったあなたの背中に浮かぶ骨は天使だった頃の名残で、幸せそうに見る夢の中では、空へ帰る練習を欠かさないのだろう。【天使】

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【一行小説】行

行六十

 毎年咲き変わる花になってずっとあなたを待ちますと残した彼女は、煩雑な手続きを一箇所だけ間違えたらしく、散らぬ造花となってしまってなお、今日もあのショーウインドウの中で約束の相手を探し続けている。【造花】